日本列島のスッポンの遺伝的特徴

スッポンについて

 スッポンはとても特徴的な形態をしています。例えば、甲板(甲羅の外側にある角質部で、いわゆる亀甲模様の部分)を失い、鼻の先がシュノーケルの様に伸びています。これらの形質は、川底の砂の中へ隠れたり、鼻先だけを水面から出して呼吸するなど、水中生活へ適応したものと考えられており、足は水かきが発達しています。一方で、古くから栄養がある食べ物として知られ、日本だけでなくアジア各国で食用にされており、養殖も盛んです。また、妖怪のカッパのモデルはスッポンであったともいわれ、古くから人々に馴染みのある生き物の一つです。

日本列島に生息するスッポンの種類は何?

 スッポンの仲間はアジアやアフリカ、アメリカと広く世界的に分布を広げており、現在は30種以上が確認されています。日本国内に生息するスッポンは、ながらくPelodiscus sinensis(またはその亜種P. s. japonicus)という学名であるとされてきました。このP. sinensisは日本だけでなく、極東ロシア、朝鮮半島、中国、ベトナムと、東アジア地域に広く分布しています。しかし、最近の研究によって、このP. sinensisは1つの種ではなく、4種に分けるべきだと発表されました(狭義のP. sinensisP. maackiiP. axenariaP. parviformis)。

しかし、日本列島のスッポンはどの種に該当するのかが不明であり、さらには現在の日本列島に生息するスッポンが外来起源ではないかとする研究報告もありました(ちなみに、琉球列島に生息するスッポンは人為的に持ち込まれたものであると考えられています)。一方で、カメ類の中でも特にスッポンの仲間は外部形態からの種同定が難しいグループとされています。そこで、私たちの研究グループは日本列島に生息するスッポンは何という種なのかを明らかにするため、そして在来性あるいは外来性を明らかにするため、日本列島各地で得られたスッポンおよび国外のスッポンのDNAを解析し、系統関係を調べました。

 

追記:2019年に、さらにPelodiscus variegatus Farkas, Ziegler, Pham, Ong and Fritz, 2019が記載されました。他にも本属内に複数の隠蔽種の存在が示唆されています。

 上記図の"#"がついているものが日本列島内から確認されたハプロタイプですが、日本列島内には遺伝的に異なる2系統が存在していることが明らかとなりました。一方は、日本列島に多く見られ、これらはロシアや韓国産のP. maackiiの塩基配列と近縁でした。もう一方の系統は、中国産のスッポンで狭義のP. sinensisと同じ、あるいは近い遺伝子型を持っていました。

 今回の研究より、日本国内からP. maackii系統が多くの地点で見られ、一方の狭義P. sinensis系統は限定された分布を示しました。したがって、前者は日本列島在来、後者は人為的に持ち込まれた外来起源であると見られます。おそらく、今回確認された狭義P. sinensis系統は養殖用に国外から持ち込まれたものが野外に逸出したものに由来すると考えられます。

学名の問題

 今回の研究によって、日本列島および極東ロシアから朝鮮半島にかけて自然分布するスッポンは、P. maackiiであると考えられます。本種は1857年にロシアのアムール川より得られた標本より、Trionyx maackiiとして記載されたものに由来するのですが、一方で1838年に日本国内から得られた標本に基づきT. japonicusという記載論文が発表されています。同じ種に対して複数の学名がある場合、原則として最も古いものが有効となりますので、日本列島の在来であると見られるスッポンの学名はPelodiscus japonicus (Temminck and Schlegel, 1838)とするのが妥当であると言えます。

 なお、Temminck and SchlegelによるTrionyx japonicusの記載年については以前は1835年とされていましたが、命名規約上適格な原記載は1838年のものとされました(岡本ら【2019】をご確認ください)。

 以上は、Suzuki, D. and Hikida, T. (2014) Taxonomic status of the soft-shell turtle populations in Japan: a molecular approach. Current Herpetology. 33(2): 171–179. の内容に基づくものです。一部、このSuzuki and Hikida (2014)発表後に変更された部分について、加筆や修正をおこなっておりますので、岡本卓・竹内寛彦・鈴木大 (2019) 2013 年以降の日本産爬虫類の分類の変更および関連する話題について. 日本爬虫両生類学会報. 2019(2): 202–217.もご参照ください。

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