ニホンイシガメの地理的変異

ニホンイシガメ

 ニホンイシガメは淡水性のカメ類の1種で、日本だけに生息する固有種です。本州、四国、九州と周辺の島々の河川などの水辺に生息します。大きさ は背甲長(甲羅の長さ)がメスで20センチ、オスで12センチ程度にまで成長します。昼行性で、植物から昆虫、甲殻類、魚類といった動物質も食べる雑食性 です。近年は各地で個体数が減っており、 2012年版の環境省レッドリストでは準絶滅危惧種に指定されています。

東西に分かれる2系統

 日本各地のニホンイシガメの遺伝的変異(ミトコンドリアのチトクロームb遺伝子とD-Loop)を調べたところ、遺伝的多様度が極めて低いものの、種内には遺伝的に異なる二つの系統が存在しました。一つは関東地方から中国地方と四国、もう一方は九州と中国地方西部に分布していました。島根県と広島県には、両系統が同所的に見られる混在地域があり、この地域内における両系統間の遺伝的な差異は他地域に比べ最も大きく異なっていました。集団の履歴を調べる解析によると、両系統共に分布拡大が有意に支持されました。また、両系統には祖先的なハプロタイプが存在し、それらはそれぞれ近畿 地方と九州に特に多く見られました。最終氷期最寒冷期(今から約2万年前)において両地域は比較的温暖な場所であったことが報告されており、最終氷期の寒い期間においてニホンイシガメは比較的暖かいこれらの地域に閉じ込められていたのでしょう。その後の温暖化に伴い分布域を拡げ、現在に至ると考えられます。

 以上は、Suzuki and Hikida (2011) Mitochondrial phylogeography of the Japanese pond turtle, Mauremys japonica (Testudines, Geoemydidae).  Journal of Zoological Systematics and Evolutionary Research 49(2): 141–147.49(2): 141–147.の内容に基づくものです。

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